>cogito樣
御無沙汰致してをります。まだ元氣は出ませんか?
古書店街は陽當りが惡いので、却つて安全なのです。尤も、それは客ではなく、商品を守るためなのですが。
先日などは、冷房の壞れた滿員電車で、無料サウナを體驗致しました。その日は外が大層涼しく感じられた次第です。
あんな環境に某氏が放り込まれたら、恐らく生きて出られぬのではありますまいか。
ところで貴編著『田中克己詩集』の年譜に、手書きの「嶺丘耿太郎歌集」といふのが出てまゐりますが、
これは同書の付録にも掲載されてゐる『歌集 戰後吟』の「年少吟」以外は活字化されてゐないのでせうか。
内容的には、「R火」等に發表された歌その儘なのか、ある程度編輯や改稿が加へられてゐるのかどうか、ですが。
と申しますのも、小生は保田與重郎(湯原冬美)の若書きの口語短歌「COGITO」(笑)といふ一連が、
かねてより氣になつてをりまして、これは嶺丘耿太郎の「夾竹桃抄」といふ連作に向けて書かれてゐるからです。
この「夾竹桃抄」といふのは、やはり「R火」に掲載されてゐるのでせうか。
「R火」、小生も閲覧くらゐはしてみたいものですが、「コギト」にすら手が出ない貧民にはとても無理さうですね。
「夾竹桃抄」 嶺丘耿太郎(「R火」6号 昭和5年9月 6-8p)
×七月七日
植込に夾竹桃は咲きさかり浮浪人らはからだ倦むらしも
噴水も水ふきあげざる日のまひるこころ楽しまず身はひた疲れ
×七月八日
雨そそぐ大川の面に芥流れいたくわびしきゆうべとなりぬ
ゆうされば烏ねるとふ法院の塔のむかふの雨空のくらさ
×七月十一日
大御濠しづもり深けれやひつじ草しみみに生ひて花保ちゐる
みささぎの濠の静けさやこぬか雨かかる小舟に菱採れる人
曇り空のみんなみに立つ白雲を暑しと思ふ道の向ふところ
弥勒菩薩ゐます御堂のかび臭さ出世(すいせ)したまふ時節(とき)とほからし
×七月十三日(森の墓)
みんな集つて泣いた日が近づくみ墓べの槙の木さへも茂りたるかも
御墓辺にしきみを捧げ水を手向けわれに出来るはこれのみと思へり
×七月十四日──十八日
汽車とまらぬ小駅の村の花畑カンナ大きく咲けるを見たり
大山の裾からつヾく松林じんじんと重き蝉のこゑきこゆ
城堀の蓮(はちす)の花の咲かむ時にとほくわれらの来りあひたる
あらし来るけはひしるしも線路(みち)ばたの紫陽花の花重たく揺るる
はやち風稲田わたれば靡きふす稲葉の波のやはらかさはも
ぽつぽつと雨ふり出でて車窓(まど)をうち山陽道に汽車ひた向ふ
眼ざむれば頭おもたきひるね後高梁(はし)川も太くなりたる
×七月二十五日
夕やけて蝉もなきごゑやめんとす大空の虹うすらみにけり
×八月三日
ゆうぐれは巨き黒犬牽きゆかしむあなおほ犬と人は云ふなる
ゆうされば生駒の山にともる灯は高みより来るすヾしさ保(も)てり
黒犬とたそがれ道を歩み来て口笛吹けど誰かきたらむ
×八月四日
朝涼は大寺の堀に咲き満てる白蓮花の上に風わたるかな
×八月五日
半鐘がきこゆるといふに話ごゑにはかに止めて皆きくらしも
妹らは火事どきの用意話し出づ女(め)の気弱さときき流されず
『夜光雲』所載分(第3巻・昭和5年)と較べてみて下さい。この第4巻の巻末に例の保田與重郎の書込みがあるわけです。
……さういへば今日は、八月三日(おんなじだ。)
“ゆうぐれは巨き白犬牽きゆかしむあなおほ糞と人は云ふなる”(笑)
ぢゃ、ごん太の散歩に行ってきます。U^Q^U/゛続きは拙掲示板にて。
>cogito樣
御教示の儀、御丁寧に忝く。
やはり雜誌掲載の作品といふものは、その部分のみ拔き出した全集で見るだけでなく、
初出誌にまで遡り、周圍との關りまで見極めなければ、作品の眞意は讀み取れないやうですね。
特に學生の同人誌にあつては。
ゆつくり拜讀し、考へさせて頂きます。
有難う御座いました。
Salon休暇中の連絡用には、どうぞ當板を御利用下さい。
尤も、小生は先週からの夏バテに夏風邪が加はり、目下ダウンしてをりますが。
>ymnk樣
例のコピーは既に取つてありますが、そんな仕儀ですので、囘復次第蝙蝠堂に屆けます。
蝙蝠堂には夏期休暇は無いのでせうか?
既にチェック濟みかとは思ひますが、今度の城北展にあの漫畫版『潮騒』が出てますな。
>凸本樣
同じく城北展に、昭和十年代の「寶塚グラフ」や、田河水泡署名入りの『滑稽の研究』なんてのが出てをりますが、
この邊りは既に蒐集終了のジャンルでせうか?
>獵奇文學實踐隊隊長・貢樣
御報告が遲れましたが、佐藤允彦による「火曜日の女」のサントラもCD化されてたんですな。
この調子で『蒼いけものたち』等もDVD化されるとよいですね。
何と言つても三姉妹は、これの澤村・千石・市川トリオが最強でせう。
「き〜よ〜ふ〜み〜〜」
いつもお世話になります。12〜16日は夏休みとさせていただきます。休み明けの17日から23日までは、西武池袋店でデパート展を行います。時間がおありの方は是非ご来店ください。暑い日が続きますが、みなさまお体を大切になさってください。
夏風邪管理人様
>「火曜日の女」のサントラもCD化されてたんですな。
私は全く知りませんでした。さすがは博識の管理人様。
情報、ありがとうございました。
>この調子で『蒼いけものたち』等もDVD化されるとよいですね。
昭和四十年代半ばの「火曜日の女」シリーズの3作、「蒼いけものたち」「おんな友だち」「いとこ同志」をまとめてDVD化して頂きたいものです。
ついでに、昭和三十年代前半の「月曜日の秘密」シリーズこれなども是非、です。
夏バテ、夏風邪とのこと、くれぐれもお体ご自愛ください。
高温多湿彭城殿
コピー、いつもお手数おかけします。漫画「潮騒」は既に持っていますが、仰るのもとうにチェック済み、とはいえ無論買いませんが。映画「にっぽん'69セックス猟奇地帯」はなかなか面白いドキュメンタリーでした。一緒にみた同じく中島貞夫の「日本暗殺秘録」が、血盟団事件がメインだったので、今度こそこないだ買った井上日召「一人一殺」を読まないといけません。
ymnk樣
コピーは本日蝙蝠堂に預けました。しかし、本當にオールナイトに行かれたのですね(笑)。
>葵の家樣
既に目を通されたとは思ひますが、岩佐東一郎『書癡半代記』33頁に、
「局紙表紙の他に二部だけ絹入り特漉紙をはいばらで求めて特製した。
一部は日夏先生へ捧げ、一部は現在も手元にある。」とあります。御參考まで。
管理人さま
さっそく確認をしていただきましてありがとうございます。
正確には2部本なのですね。
なるほど表紙をよく見てみるとそこかしこに極太の絹と思われるような糸が混ぜられています。
しかし、すぐに『書癡半代記』が出てくるとは恐れ入りました。
私も特装版・普及版と2種所持しているはずなのですが、どこにいってしまったのか見つけることができません。
お恥ずかしい限りです。
>彭城樣
その邊りは蒐集未着手に御座候。丁度、戰爭と寶塚についての本を讀了したばかりですので昭和十年代の「寶塚グラフ」といへば興味は無い事も無いやうな氣がしない事もありませぬ(正直に言へませぬ)。復刻されてゐない時代ですし、今はまつたく手がまはりませぬがいつか實見したい處です。
無料サウナを體驗されたりふうじやを御召しになつたり夏負けされたり、大變な目に遭はれ給ふた御樣子。昨日は元氣さうな樣子で登場されましたが、暑い日が續いてをりますのでどうか御大切に。
のんしゃらん市市民彭城殿
本日、かわほり堂にてコピー他、資料拝受。毎度毎度ありがとうございます。
ところで、オペラ「班女」ですが、ご存知かも知れませんが終戦記念日の本日夜、NHKにて放映されます。
人魚通信の玉稿、楽しみにしております。
http://www.nhk.or.jp/art/yotei/yotei.html
黒髪の長い(本當は恐いらしい)お兄さんに文語調の蒐書日記を繼續的に書き込めと脅迫(?)されたので、
何とか挑戰しようと努力してゐるのですが、何日もかかつてしまひ、これでは全く日記にはなりませんな。
>葵の家樣
>すぐに『書癡半代記』が出てくるとは恐れ入りました。
それだけ本が、見る影もなく減つたといふ事でして。
どの道この水準の雜書しかありませんので、こちらこそお恥づかしい限りです。
もし差支へなくば、過日の進藤本のカヴァーだけコピーして戴けると有難いのですが・・・
>凸本樣
御丁寧な御見舞ひの言葉誠に忝く存じ奉り候。
卒爾ながら田河水泡の『凸凹黒兵衞』邊りも蒐集豫備軍なりや?
>ymnk樣
藝術劇場の件は、新聞にも出てゐなかつたのでノーマークでした。
御教示有難う御座います。でも紹介はほんの少しでしたね(笑)。
今月末に「現代詩手帖」の増刊號で春日井建特輯が出るらしいのですが、
もしかしたら、例の三島を語つたとかいふ最後の講演も収録されるかも知れませんね。
といふか、私が編輯長だつたら目玉として絶對に入れますけどね。
さう言へば、先週のBIG BOXに三島も一文を寄せてゐる青年座の座史が出てましたな。
ところで、池袋の初日は皆さんで某氏の工房もついでに襲撃するのでせうか?
日記マスター彭城殿
いやはや、オペラ「班女」、私も録画しながらガックリ、全部で3分少々のみでした。それと、春日井の講演「三島由紀夫と私と短歌」は、「短歌研究」今年の2月号に掲載されています。
>彭城樣
田河水泡の主立つたキヤラクターの中では、黒兵衞がいちばんかはいいと思つてをりますので、豫備軍の豫備役くらゐにははいつてをります。戰前の版はたとへ重版でも私には不相應でございますれば、戰後版を適當な價格で入手できたらなー、と。
突然かう御呼びするのも失禮かと存じますが、クロカミテイオー樣(假名)は何時の間にか「元」をつけずに呼ばれてをりますねえ。まへからでしたつけ?
管理人 様
凸本 様
クロカミ云々とはわたくしの事でしょうか(笑)
管理人様は最前より御存知ですが、「元」が付くのは掲示板の中だけ、
平生の会話では「元」など付けられた事はありませんねえ。
まあ、ネタ話は誇張が付帯した方が楽しめてよろしいのではありませんか。
尤も本人だけは楽しめませんけれども。
脅迫、などと管理人様もお人が悪くていらっしゃる(笑)
日記は一向に仕上がりませんのでお返事だけ先に。
>萬嘯亭樣
「付帶する」とは勿論「帶付き」の事ですね(笑)。やはり帶を無理矢理解くところに快樂は存するのでせうか。
いやいや、萬嘯亭樣のやうなその道の達人ともなれば、左樣な野蠻なる振る舞ひに走るまでもなく、
ほんの少し目配せしただけで本も女子も帶を解き始めるのでせうね。まるで眠狂四郎、羨ましき限りです。
>凸本樣
>黒兵衞がいちばんかはいいと思つてをります
緑兎樣より黒兎樣がお好みでしたか。いえ、他意は御座いません(笑)。
>クロカミテイオー樣(假名)は何時の間にか「元」をつけずに呼ばれてをりますねえ。
>平生の会話では「元」など付けられた事はありませんねえ。
どうやら文句なしに「現役」である事を圖らずも御本人自らがお認めになつたやうですね。あな恐ろしや、桑原桑原。
>ymnk樣
最も立ち讀みする氣にならないのが短歌雜誌といふ奴でして。それは氣が付きませんでした。
特に「短歌研究」は大型書店でも置いてゐない事が多いやうです。
ところで新文藝坐來月の「江戸川亂歩映畫祭」でも上映される『死の十字路』は御覧になつてをられますか?
仄聞するところでは、亂歩自身もお氣に入りの作だつたさうですが。
http://www.shin-bungeiza.com/schedule.html
池袋住人のくせに初日にいかなかった私。
忘れてました…
いつもならこの時間寝てるのですが今日は我慢して西武へ行きますよー。
この生活サイクルもちょっと考えないといけませんね。
平成十六年八月十二日(木)。
夏風邪漸く癒えたれば、實に數年振りに高田馬場大箱(BIG BOX)大古書市を覗く。
既に四日目にして、かつ某實踐隊隊長の漁り盡くせし後なれば、全く期待もせずに廻れども、
久久に往年の惡癖を發揮して何册か購入す。
先づは加藤龍門詩集『盡未來』(十字屋書店 昭和貳拾玖年刊)なり。
詩集の類ひには、もう手を出さぬ積もりでをれど、此書は以前五反田展で見掛けて氣になつてゐたるもの。
題簽は日夏耿之介にて、獻じられてゐるのも日夏と西條八十なり。
實物に照らして、cogito詩伯の詩書リストの記述は以下の如く訂さるべきならむ。
チョシャ【著者】「題名」出版年/出版社(叢書名)/ページ/サイズ装釘部数/定価
カトウ リュウモン【加藤龍門(守)】『盡未来』1934/十字屋書店/322p/21cm函/
↓ ↓
カトウ リュウモン【加藤龍門(守)】『盡未来』1954/十字屋書店/322p/21.5×15.5cm函入限定300部ノ内7部總革装三方金、他293部上質クロース装天金全册署名入/\1500
尚、編輯解説装丁序文插畫の加藤孝夫は、著者龍門如雲散人加藤守の義弟とぞ。
題簽は日夏となつてをれど、其は扉の次の頁に插入されてをり、表紙の文字は別人のものの如く思はる。
亦、323頁目には「特製獻呈本所有者芳名録」が載つてをり、壹番日夏、貳番西條なり。
更に巻末には「日本四次元派著書刊行豫告」があり、龍門や孝夫の著書が九册擧げられてをり。
標題だけ書き寫すに、曰く『香蘭圏秘記』『水晶宮』『假面の設計』『零の孔雀』『松韻集』『石の髭』
『透影天使』『螺旋蟲詩華集』『白色輪廻』、おまけに四次元主義藝術雜誌「螺旋蟲」創刊豫定とあり。
恐らくは殆どが未刊ならむ。もしこれらが刊行されてをれば、或いはそれなりの評價も受けてゐたかと思案するのみ。
付け加へれば、三角形の特製栞付されてをり。
お次ぎは「三田文學・臨時増刊/水上瀧太郎追悼號」(三田文學會 昭和15年)なり。
雪岱装とは言ひ條、汚雜誌では餘り有難味もなし。恩地大人ならさしづめ極美を五、六册はお持ちならむ。
余としては豪華な執筆陣を眺めるだけで滿足なり。中に中戸川吉二、山崎俊夫、木村庄三郎の名もあり。
他には添田達嶺『半古と楓湖』(睦月社 昭和30年)、梶田半古と松本楓湖の評傳なれど、
當然乍ら北田薄氷に就いても若干觸れられてをり。萬嘯亭主人先刻周知の文獻ならむ。
以下列擧するに、野田宇太郎『日本耽美派の誕生』(河出書房 昭和26年)古谷綱武宛獻呈署名本、
佐藤春夫『文藝一夕話』(改造社 昭和3年)、横山健堂『大西郷兄弟』(宮越太陽堂書房 昭和19年)、
高安月郊『東西文藝評傳』(春陽堂 昭和4年)には、棕隱、柳北に就いても一章あり。
後は『落合太郎著作集』(筑摩書房)に、『定本 吉田一穗全集』(小澤書店)等の買ひ直しの全集類、
我乍ら何とも莫迦莫迦しき限りなり。
オフで御会いした皆樣。昨日は樂しかつたです。ありがたうございました。
管理人樣の日記はやはり話題になりましたねえ。萬勝帝樣(假名)にはこれからも脅迫(?)していただかなくてはなりますまい。
そして散水辯樣、何うか御大事に。
>彭城様、ymnk様
下記にて話題の春日井本、入手ゐたし候。三島關聯の記事(無論各處からの再録)もいくつか御座いました。これから目を通します。
某月某日。不覺にも終電を逸し、圖らずも萬嘯亭主人と夜を共に過す僥倖に惠まれたり。
嗚呼、その眼技舌技指技腰技到底人間業と思へず、正に神業、人をして恍惚境に到らしむ。
口説き文句も宛ら一編の詩にして、日本文學史に刻まるべき一大叙事詩なれど、
これまで多くの女人(極く稀に男子も?)が只管篋底に秘めて公にせざりしもまた宜なるかな。
心身共に蕩け切つたる後は、改めて萬嘯亭主人の支配する闇の領域<秘境女子十二閨房`>`での
雜魚寝を體驗してみたきものなれど、そこは萬嘯亭主人以外の男子は禁制の場所なれば、
殘念乍ら諦める他なし。この際古本横丁前での徹夜も辭さずと思へど、結局車で歸宅する
破目になりたること件の如し。この車代あらば本の數册買へたものをと悔むは、
正に病膏肓にして、我乍ら正氣の沙汰とは言ひ難し。