『警句集女と惡魔』　G.F.Monkshood編著　安成二郎訳

【婦德】

猫かぶりの女は、婦德を言葉と態度に展覧し、貞淑の婦人は行為に示す-----ラ・ブリュイエール
婦人の最も良き品性は感情の中に住んでゐて、理智の中には住まない。彼女は智識よりも寧ろ愛情に依て爽快の感じを與へる-----スマイルス
沈黙と謙遜とは婦人の最も良き装飾である-----ユーリピデ
若し婦人がもっと謙遜なら、男子はもっと正直になるだらう-----ヴォプルュー
眞の謙遜は、衣服よりもヨリ良く婦人を保護する-----(無名氏)
貞節淑德の婦人の如き價値ある實は世界に無い-----セルワ゛ンテス
男子にあって智識と呼ぶところのものは、婦人にあっては謹愼である。一を以て他より大なりとするは不公平である-----ステール
我々男子は婦人に對してそれを強いる権利は無い。しかし、イヴの大自在力は謙遜にある-----エマーソン
おシャレの女は自分の噂を、時には貞操をさへ危くする。反對に、猫かぶりの女は、秘密の名誉を犠牲にして、それを世間的に維持する-----ポカヂュ夫人
婦人は慈善の天才を有つ。男子は黄金のみを與へ、婦人はそれに同情を加へて與へる-----ルグヴェ
世間には、婦德といふものは猫に與へられた爪のやうに――引掻く外に能が無い――自分等に與へられたと考へてゐる女がある-----ジェロルド
德を保つ為めには、男は欲望と戰ふばかりであるが、女は己れの性癖と、男の不斷の襲撃とに反抗しなければならぬ-----ド・ラトナ
總ての眞實なる婦人の心には、天の火の火花があって、窮乏の暗に燃え耀く-----ワシントン・アーヴヰング
質素は若い娘の淑德の最も良き保護者である-----ゼンリ夫人
婦人の德は屡々、美名と平静の愛である-----ラ・ロシュフォコー
子供が太鼓を持って打ち鳴らして歩くやうに、婦人が淑德を取り扱ふ事をしないならば、婦人に於て淑德は最も美くしいものである-----ジェロルド
虚榮と恥辱と、そして總てを越えて稟性は男の勇氣を作る。而して貞操は女の勇氣の源である-----ロシュフォコー
婦人にとって、男子に對して婦德を防禦する事は、婦人に對して風評を防ぐよりも容易である-----ロシプリュー
婦人が社交界に入る事は、謙遜の德を失ふ事である。そして、此の謙遜は婦人の最も大なる魅力である-----ワード・ピーチャー夫人
善良なる婦人の道は、寔に花を以て播かれてある。しかし、花は彼女の足の前では無く、過ぎ去った後に咲く。『彼女の足が草場に觸れて紅の雛菊を遺す』-----ラスキン
貴婦人が街を行く時、彼女はその婦德の忿恚の面容を家庭に殘してゐる-----ホルメス
婦人の淑德は絃樂器の音樂である。それは最も室内に調和する-----リヒテル
婦人を傲慢にするものは美である。彼等を最も尊敬させるものは婦德である。彼等を神聖に見えしめるものは支配である-----シェークスピーヤ
貞淑な婦人があるかも知れない。とは云へ、彼女の婦德を稱讃する事は、彼女にとって最も小さき喜びである-----プレンス・ド・リーニエ
婦人が貞淑である事は、婦德の不斷の願望では無い-----ロシュフォコー
貞淑の婦人をば微笑させるのみの戯言は、屡々猫かぶりの女を驚倒させる-----ド・ラトナ
若しも、善良なる婦人の愛らしく閉ぢられた感情が一人の男の前に開いたならば、いかに多くの抑制された柔和と、いかに多くの隱れたる献身的行為と、沈黙せる貞淑とを彼が見る事であろう-----リヒテル
眞の婦人の心は自分の位置を知ってゐる。それは其の範圍を越えて迷ふ事が無い-----ホーソン
大なる惡と大なる德は、男にあっては例外である-----ナポレオン一世
貞淑の婦人は、他の婦人よりも少くか或は多くの繊維を心に有す。彼女は愚鈍に非ざれば俊秀である-----バルザック
多くの婦人は、怜悧であるとか美くしいとか云はれるよりも、寧ろ彼女の婦德の正しからぬ事を云はれるのを好む-----フォントネル
アトラクションの無い婦人よりも容易に婦德を保つ婦人は無い-----(無名氏)
婦人の反抗は、屡々彼女の經験であるが、常に彼女の淑徳の證據では無い-----ニノン・ド・レンクロス
有らゆる貞淑の婦人は女皇である-----ヴァザン
婦德、一語云ふに容易くして、了解する事が困難である-----ヴォルテール
貞操は、之を守る者が輕んじ。之を犯す者が尊敬する-----(譯者)
舊道德に對する反抗としての貞操の破壊は自由戀愛では無い-----(譯者)

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【婦德】

『警句集女と惡魔』　G.F.Monkshood編著　安成二郎訳