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警句集 女と惡魔』 G.F.Monkshood 編著 安成二郎訳


【戀愛】

唇と接吻との間には常に悔改めの刹那がある-----リカルド
淑徳ある婦人の戀に落ちたのが一番可憐らしい-----ラ・ロシュフォコー
戀をするのは下戸が酒を飲むやうなものである。飲み過ぎては不可ない-----ド・ムーセー
戀は官能の詩である-----バルザック
戀とは一人の利益の為めに二人の人間の結合する事である-----ナタリエ伯爵夫人
取るにも足らぬ娘が私を奴隷にした、――嘗て何等の仇をせぬ此の私を-----エピクテタス
詩人の嘆きを作る娘と、彼の肉汁を作る娘とは大變な違いだ-----シェルドー
戀にはいろいろの種類がある、が、其の目的は一つだ。曰く、占有-----ロクプラン
戀は美を保存する、女の肉體は蜂が花と共にある如く抱擁を食とする-----フランス
惡い女の戀は相手を殺し、善き女の戀は自分自身を殺す-----ジォーヂ・サン
拒絶された婦人も決して失望するに及ばない。一日は二十四時間だ。二十四時間内には女が心を飜さぬとも限らぬ-----ド・フヰノー
ただ戀そのものに後悔する時、女は屡々戀人に後悔したのだと思ふ-----ラ・ロシュフォコー
嫉妬は戀の姉妹である、惡魔が天使の兄弟であるやうに-----エルフラース
互ひに近寄る二つの微笑は一つの接吻に終る-----ユーゴー
女の一生は三つの時期に分つ事が出来る。第一の時期に於て彼女は戀を夢み、第二に於てはそれを経験し、最後にそれを後悔する-----サン・プロスパー
戀愛の事件に於ては、若い羊飼ひの娘は老いたる女王に優る相手である-----ド・フヰノー
女は時々戀人を欺く――友達には嘘を云はないくせに-----マーシェー
御身をのみ愛すると女に約束するに先ち、總ての女を見るか、或は相手の女をのみ見る事を要する-----デュビュー
男子と婦人との間に始まる友情は間もなく其名を變更する-----(無名氏)
戀は婦人の優雅を減じ、男子の優雅を増す-----リヒテル
男は決して最初の戀に満足しない、又、女は最後の戀に満足しない-----ワイズ
女は戀に於て男よりも熱するが、友情に於ては男が女よりも深く進む-----ラ・ブルーエー
十六の少女は戀を知り、三十の女はそれを鼓舞する-----リカルド
女が戀を嘲笑するやうな風をするのは、子供が夜中恐怖を感じた時、歌を歌ふやうなものである-----ルソー
婦人の使命は戀、恒に一人を戀する事である-----ミッチル
戀は女の感情の中に歌ふ鳥である-----カール
自然は戀といふ嫁入仕度を持たせて此の世に女を遣はした-----リヒテル
男子は決して自分の尊敬する女を戀しないが、婦人は全く反對だ。彼等は戀する人をのみ尊敬する-----デュビュー
不變は戀の幻想である-----ヴァエ゛ナルグス
私は君に唯一つの忠告をする――有らゆる女と戀に落ちよ-----モントマリン
戀が婦人に為す事は何であるか? それなしには彼女はただ眠るのみである。戀があるばかりに婦人は生きる-----フーイレット
神は婦人の心の中に天才を植ゑた。天才の仕事は常に戀の仕事である-----ラマルチン
總ての宗教の中で、戀は最も虚偽である-----パレオローグ
婦人が我等を戀する時は總ての事を、我等の罪をさへも許す。しかし、我等を戀しない時は一つも、我等の徳をさへ信じない-----バルザック
戀人を發見し、又友情を保つ事は容易であるが、友人を發見し、戀を保つ事は困難である-----レヰ゛ス
明日に延ばさずに今日戀するが宣い。歓びを延期するは歓びを失ふ事である-----リカルド
若し婦人をして神たらしむるも、彼等は決して最後の戀人を發見する事は出来ない-----ド・ラメンナース
婦人は天才に優る-----ド・ムーセー
時は早晩戀を征服するが、友情はひとり時に打勝つ-----ダーコンヴィル
戀、それは男の一生に於いては一つの挿話に過ぎないが、女に於いては一生を貫く小説である-----ド・スタエル夫人
婦人なしの男子の生活は粗雜で無作法で寂寥で、總ての優美――戀人の微笑にのみ生ずる――を知る事が無からう-----シャトーブリアン
總ての喜びは大笑せしめない、大いなる喜悦は嚴粛である。戀の歓喜は我等をして笑聲を出さしめない-----ヴォルテール
戀 ! 戀 ! 永遠の謎 ! 汝を護るスフヰンクスは汝を説明するエヂバスを發見しないのであらう乎?-----ヤツト
自分は男子を愛する。それは彼等が男だからでは無い、女でないからである-----クリスチナ女皇
女は戀が與ふる感情にのみ生きる-----ホーセー
戀は月の如し、満つれば虧く-----セガー
女は戀の為めに生れた。戀を求める事から彼女を轉ぜしめるのは不可能である-----オッソリ
眞の戀愛に於ては、嫉妬が戀を殺すか、戀が嫉妬を殺すか、どっちかである-----ボーゲー
戀の誓の如く、多くの偽誓者を作る誓は無い-----ロクプラン
戀の狂熱が過ぎ去った時、我々はそれが發見した完成を嗤ふ-----ド・レンクロス
戀してゐる婦人は、性格に對して最も憐れむべき審判者である-----ホーランド
世間には、いい位に戀をして、いい位に有名で、いい位に幸福な人がある-----ド・クルデネーユ
婦人の友情は男子の友情に比して、もっとずっと戀に近接してゐる-----コレリッヂ
婦人を戀する事は、自由主義の教育である-----コングレーヴ
婦人を愛する如く神を愛したならば、男子は聖徒となるだらう-----セント・トマス
我々は性として秀麗な婦人を愛し、趣味から家庭的婦人を、道理から淑徳ある婦人を愛する-----ホーセー
信仰は婦人の最後の戀である-----サン・エヴルモン
鋭敏なる眼は殆んど常に、若い娘の眼或は唇に、彼女の胸中の『私は御身を愛する』に導びく誘惑を見る事が出来る-----ホルメス
總ての熱情の中、戀は最も強い。それは頭と胸と官能とを同時に襲ふ-----ヴォルテール
婦人は饒舌であるとは云へ、戀は彼女に沈黙を教へる-----ロクプラン
戀する女の胸は金の聖堂である。人間の偶像が屡々其處を支配する-----リメーラ
最も貞淑な婦人は最も逸樂の婦人となるかも知れない――若しも彼女が戀をするならば-----ミラボー
女と酒と歌とを愛せざる者は、長い全生涯が愚人として殘るであらう-----マルチン・ルーテル
淑徳と戀とは二つの人食鬼である-----ドーデトート
戀は決して飢餓の為めには死なないが、屡々消化不良の為めに死ぬ-----ド・レンクロス
ヴエナスは、彼女が誘導する戀人を常に救助する-----ドラトーシェ
満足の慾望は、戀の慾望に先つて女に生れた-----ド・レンクロス
若い寡婦の涙は、愛の手に拭はれる時その苦き味を失ふ-----(無名氏)
戀は結婚よりも心を喜ばせる。小説が歴史よりももっと興味があるといふ理由で-----シャンフォー
女はつねに戀する。地球が彼等から滑り去る時、彼等は天上に隠れ家を求める-----(無名氏)
神話に於ては、どの神様もミネルワ゛と戀に落ちない。男のやうな女は、女のやうな男の興味を惹くばかりである-----シェルドン
戀の軛は、時に總ての婦徳の軛よりも重い-----モンテーヌ
總ゆる重い肉體のうち、我々が戀する事を止めた女が一番重い-----ルモンテー
婦人に於て、親切は美しい容貌では無いが、私の戀を贏ち得るであらう-----シェークスピーヤ
肉體の愛は、もっと恒久の愛の焔を人類の胸に燃やす目的を持った一時的の火花である。それは教會堂の外部の庭園である-----サバチエ
戀は、増進を止めると減退する-----シャトーブリアン
戀人は其の國語に於て無量の語彙を有する。其の言葉の一つ一つのシラブルが抱擁である-----ロシェペドル
慈愛深き婦人の過失の最も小さいのは戀する事である-----ラ・ロシュフォコー
戀の中には、我々が想像するところ以外に何んにも無い-----サン・ブーヴ
男は最初に、そして最も温かに愛し、女は終りに、そして最も長く愛する。これが自然である。何故なら、自然は男は勝ち、女は負けるやうに造ったから-----カーチス
女は常に戀の結果を熟慮する。が、怨みの結果を考へない-----コルトン
女は戀に於けるよりも憎みに於て不變である-----(無名氏)
婦人は愉快なる樂器である。その樂弓は戀で、男子はその彈者である-----バイエー
戀愛の事件に於て、無邪気から過失に至る間には唯一つの接吻があるばかりだ-----アルベリック・セコンド
男は常に女の最初の戀人である-----ド・ラクロス
男の心を迷はす時、女は幸福で、其の望むことは總て得られる。此の事を知ってから、男を俘にする技術に達するといふ事が女の生涯の大なる目的となった-----トルストイ
戀するといふ事は感情を以て尊敬する事で、尊敬するといふ事は理智を以て戀する事である-----ゴーチェ
慢心の初まるところに、戀愛は終る-----ラヴァーテル
我々を戀する一人の女よりも満足な友は無い-----サン・ピエール
女の饒舌る一言は、男の心が持って居るよりももっと戀を消散する-----ホルメス
戀の中に戀より他の何物かを發見しやうとする總ての戀人は戀人で無い-----ボーゲー
與へた時、戀人は命令する――そして、與へたよりももっと多く-----バリ
婦人は戀せられる事を欲ふ。それは彼等が可憐であり或は善良であり或は育ちが良く成は優雅であり或は賢いかの為めでは無く、彼等自身であるからである-----エミエー
戀する一人の男に對して信實に満たされる婦人は、小説家の空想の外である-----バルザック
猫かぶりの女は思慮無き戀人にのみ適すと定められたるものであ-----ライソン
若しも總ての女の顏が同一の模型に鑄られたならば、其の模型は戀の墓となったらう-----ビシャ
戀する女は、どんなに過失があるとも、決して全然利己主義では無い。何故なら戀は人道の感化を有する。そして、眞の情熱は容易に或る犠牲を為す-----ピーボデー
男が戀に於て求むるものは女である。女が戀に於て求むるものは男である-----ホーセー
最も甘美の諧調は、自分の戀する婦人の聲の響である-----ラ・ブルイエール
我々は、母親の顔を見る如く、小さき一人の婦人の顔を見る。そして、我々の思慕に答へる總ての様子を見る-----ジォーヂ・エリオット
婦人の感情は決して老いない。それが戀する事を止める時、生存を止める-----ローシェペドレ
婦人は想像の貧弱と寂寥との為めに、彼の少女を畫く事が出来ない-----エマーソン
理想の高尚なる命令に於ける男子の生涯は光榮であり、婦人の生涯は戀である-----バルザック
戀よりも虚榮は多くの婦人を滅ぼす-----ド・デフアン
誰でも最初はヨリ多く戀し、二度目にはヨリ良く戀する-----ロシエペドル
書物にあるやうに戀せられやうといふのは空想である-----ボーゲー
戀は熱情の最も恐ろしき、そして又最も寛大のものである。それは、其の夢の中に或る他人の幸福を含有する唯一のものである-----カール
女が其の溺愛する戀人に為す誓は、空氣に、或は迅く走る流れに書かれるに適するのみである-----カタルラス
苦しみ惱む時、人は群集中に於て孤獨である-----ロシェペドル
短かき不在は戀を生かし、長き不在はそれを殺す-----ヴォルテール
女は屡々戀の為めに死ぬ。清淨なる處女が情のパンテオンに於て永遠に生きやうとして死んだやうに-----ブラウン
我々を戀する婦人は唯單なる女性である。しかし、我々が戀する婦人は天上の實在である。彼女の缺點は我々が彼女を見る稜鏡の下に隠れる-----ヂラルダン
不幸な戀、或は不完全な戀をするよりは、斷じて戀をしないが良い-----ルイズ・コーユ
女の戀は屡々不幸である。其の友情は常に幸福である-----メズエール
友よ、美くしき少女に氣を付けよ。彼等の親切が始まる時、我等の臣事が近づく-----ヴヰクトル・ユーゴー
戀は死の如く強く、嫉妬は墓の如く残酷である-----(聖書)
女と戀を論ずる者は、常に何物かを期待してゐる-----ポアンサロー
人生にあっては、婦人は、客間で舞踏の招待を待ってゐるやうに、戀さるゝまで待たなければならぬ-----カール
女は單に戀から借りたものを友情に施す-----チャンフォー
痴行は、それが盲目にした戀の案内者として仕へるやうに罪を定められた-----ラ・フォンテー
觸れられた瞬間から、心情は乾く事が出来ない-----プダルー
女を知るまで、我々は『戀の力』を知らない。戀に於て我々は、恐らくは、神の善良と全能の最善の象徴を有つ-----チャンニング
女は彼女に深切を盡す男を輕蔑する――若しも男の愛に還る氣にならなければ-----エリザベス・ストッダード
男は戀を感ずる前にそれを告白する。女はそれが戀であると解った後にのみ其の戀を打明ける-----ド・ラトナ
戀は乞食である。それは有らゆる物を與へられても猶ほ乞ひ求める-----ロシェベドル
戀人同士の爭ひは、鄙をもつと青々と美くしくする夏の夕立のやうなものである-----ネッカー夫人
戀は時に清淨なる肉體を腐らし、屡々腐れたる情を清淨にする-----ラトナ
戀は稀に、我々に幸福を與へる。少くとも我々をして幸福を夢想させる-----セナンカート
戀は醫學――『自然』を助ける技術――のやうなものである-----ラレマン
我々を滅ぼすものは戀では無い。戀をする方法である-----ブシ・ラバチン
占有は戀の試金石である-----パネーヂ
戀は毎日奇蹟を行ふ。強きものを弱くし弱きものを強くし、賢い人を愚かにし愚人を賢くし、感情を恵み理性を滅ぼす。一言にして云へば、有らゆる事を無茶苦茶にするのである-----マルゲリット・ド・ワ゛ロア
戀に於ては、總ての他の事に於ける如く、經驗は、病氣が癒えた後まで決して来ない醫師である-----ド・ラ・トウ
戀に於ては、婦人は七絃琴のやうなものである。如何に其の絃に觸れるかを知るところの手にのみ其の秘密を開く-----バルザック


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